しなやかに、自分の律で生きるための実践知メディア

よいもの

結ぶ、ということ

─ 45Rのオールインワンと、意識の向き

紐を結ぶ。
ただそれだけの行為なのに、
身体のどこかが、
少し静かになることがある。

固定するためではなく、
位置を確かめるために。
結ぶ、という動作がある。


服はたいてい、
知っている世界の中から選びます。

これまで着てきた服の延長だったり、
見慣れた形だったり、
写真を見て「だいたいこうだろう」と
想像できるものだったり。

たまに冒険しようかな、と思うことはあっても、
その冒険も、多くの場合は、
知っている範囲の少し外側にとどまっています。

45Rと、一枚の着こなし写真

今回のオールインワン(つなぎ)も、
選んだ理由自体は、特別なものではありませんでした。

もともと45Rの服には、
昔から縁があり、好きでもあります。
セール品をざっと眺めている中で、
このオールインワンが目に入りました。

男性の着こなし写真を見て、
「これ、意外と良いかもしれない」と感じました。

正直に言えば、
その写真がなければ、
ピンと来なかった可能性も高いと思います。

意外だった、オールインワンという選択

最近は、45Rではないですが、
細身のジーンズやスラックスを履くことが多く、
リラックスウェアとしては、
スウェットやジョガー系はいくつか持っていました。

そろそろ、
もう少しゆったりしたジーンズを探そうかな、
そんな流れの中で服を見ていたのだと思います。

オールインワンは、
自分の中では、やや意外な選択肢でした。

ただ、部屋着としても動きやすそうで、
そのまま外にも出られるなら悪くない。
そのくらいの感覚で、検討し始めました。

着てみて分かった、違和感

実際に着てみて、
最初に浮かんだのは、
「作業着っぽいな」という印象でした。

素材の感じ。
直線的な形。
紐で締める構造。

ワークウェアの系譜にある服だと、
そう思いました。

ところが、
しばらく着て動いているうちに、
少し違う感覚が立ち上がってきました。

作業着よりも、稽古着に近い

それは、作業着というよりも、
空手着や合気道の稽古着、
あるいは着物に近い感覚でした。

布の感じ。
形の余白。
帯のように、紐を結ぶという動作。

もちろん、作業着的な機能もあります。
けれど、それ以上に、
「稽古着的だな」という印象が残りました。

機能を外に向ける服、意識を内に向ける服

あとから考えてみると、
この違いは、見た目や用途の話ではありませんでした。

作業着は、
機能を外に向ける服だと思います。

何かをこなすため、
外側の世界に対して、
効率よく働くための服。

一方で、稽古着は、
意識を内に向ける服です。

身体の動きや、重心、呼吸。
自分の中で起きていることに、
注意が戻ってきます。

このオールインワンは、
作業着の形をしながら、
着ていると、どこか意識が内側に向く。
そこが、不思議でした。

紐を結ぶ、という行為

この服の紐を見ていて、
ふと思い出したことがあります。

靴紐を、結び直すということです。

普段は、
ほどいたり結び直したりせず、
そのまま履いたり脱いだりしてしまいます。
楽ですし、それで十分に歩けます。

けれど、
いちど靴紐を結び直すと、
歩き方や、身体の感覚が、少し変わります。

紐に触れるとき、
いったん、動きが止まる。
45rpm オールインワン

それは、機能の問題というより、
内面的な話なのだと思います。

成立してしまう日常と、向き合う行為

掃除も、
毎日しなくても生活はできます。

シーツも、
毎日替えなくても眠れます。

食についても、
それほど気にしなくても、
身体は酵素を出し、消化し、排出してくれます。

それでも、
向き合い直すという行為には、
別の質があります。

紐を結ぶ。
整える。
選び直す。

それは、
世界や身体が出している、
かすかな声に、近づく動作なのかもしれません。

想像では、分からなかったこと

このオールインワンは、
見た目や機能から選んだ服でした。

けれど、着てみて初めて、
こうした感覚が立ち上がりました。

これは、
行動しなければ分からなかったことだと思います。

想像は、
知っている世界からしか立ち上がらない。
知らない動作は、再現できない。

着て、動いてみて、
初めて、想像が更新されました。

よいものとは何か

よいものは、
最初から価値が分かりやすいものではないのかもしれません。

期待通りに機能するものよりも、
期待していなかった次元を、
静かに開いてくるもの。

今回の45Rのオールインワンは、
自分にとって、そういう存在でした。

選んだ理由と、
分かった理由が違う。

そのズレの中で、
自分の感覚や、意識の向きが、
少し更新されたように感じています。


紐を結ぶ。
服を着る。
身体を動かす。

ほんの小さな行為が、
世界との距離を、
少しだけ縮めてくれることがある。

たぶん、
よいものとは、
そういう瞬間を、
静かにつくってくれるものだ。


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Shingo Takenaka

Shingo Takenaka

しなやかな律を探る実践者|APLF主宰

北海道・苫小牧市に生まれ育つ。東京大学大学院を修了後、外資系テック企業で働きながら起業。 現在は、人・もの・自然をつなぐ活動を軸に、自己の律と他者との共生を探求しています。 APLFでは「自分らしく、しなやかに生きる」ための実践知を静かに発信し、日々の整えから人生の投資と回収まで、思考と行動を重ねながら日常の美しさを見つけ続けています。

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  3. 世界と距離を取るという、生き方 ─ ここにいながら、巻き込まれすぎない

このメディアをつくっている人

Shingo Takenaka

APLF主宰

しなやかに、自分の律で生きる
人と自然、もののめぐりを見つめながら
東大院|外資テック|起業10年

.
去年の旭山で。

何をしているのかは、よく分からない。
でも、ずっと見ていられた。
.
光の向きで、部屋の表情が変わる。
ゆっくりと火の季節になってきた。
.
ひとりで歩く夜でも、
どこかで誰かとつながっている気がする。

看板の灯りや、店に流れる小さな気配が、
そっとこちらの歩幅を整えてくれる。

この街の夜にも、静かなやさしさがある。

日々、誰かや何かとの出会いがあって、
それが過剰な意味を持たなくてもいい。
気負いすぎず、気負わなすぎず、
ただ今日を歩いていけばいい。
.
失われていくものには、静かな美しさがある。

街も、人も、建物も、生きているように変わっていく。
生まれ、育ち、そして少しずつ朽ちていく。

その流れは止められない。
だからこそ、心が動くのだと思う。

かつて誰かが暮らし、笑い、
生活の音があったはずの場所に立つと、
そこに残る “気配” に触れることがある。

完全には戻らないもの。
もう取り戻せない時間。

その不可逆さが、優しさや懐かしさを生む。

失われるからこそ、
大切にしようと思えるし、
誰かに優しくなれたり、
いまを丁寧に味わえるようになったりする。

衰えることは、ただのマイナスではない。
そこから新しい命や文化が生まれ、
誰かが受け継ぎ、形を変えながら残っていく。

すべてが永遠に続く世界より、
終わりがある世界のほうが、きっと美しい。

生命も、街も、建物も、
変わっていくことで息をしている。

その無常を抱きしめながら、
今日をちゃんと生きていきたい。

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