しなやかに、自分の律で生きるための実践知メディア

記録

思い出すということ

─ もともと知っていたもの

On Remembering

あの夜のことを、ときどき思い出すことがある。

冬の夜、北星小学校のグラウンドで
凍れた地面に倒れ込み、空を見上げていた。

星がよく見える夜だった。

そのとき、
宇宙と自分の区別が、
少しだけ曖昧になった。


あとから考えると、
あのとき感じたことは、
何か新しいことを知った、
という感じではなかった。

むしろ、

もともとどこかで知っていたことを、
思い出したような感じだった。

「ああ、そうだったのか」

と、静かに確認したような感覚に近い。

不思議なことに、
どこか懐かしさもあった。


数学者の岡潔は、
人間にとって大切なものは
「情緒」だと言っている。

情緒というのは、
知識とは少し違う。

説明できなくても、
どこかで分かっているような感覚。

懐かしさや、
落ち着く感じ。

そういうものも、
情緒のひとつなのだと思う。


以前、
若い画家の個展を見に行ったことがある。

その作品を見ていると、
若い頃の自分の感覚が、
静かに戻ってくるような感じがした。

何か新しいものを学んだ、
というより、
「ただいま」に近い気持ちだった。


赤ん坊は、
何も知らないのに笑ったり、泣いたりする。

知識はない。

けれど、
情緒はすでにある。

社会の中で生きていると、
人はさまざまな役割を持つ。

仕事をしたり、
何かの立場になったり、
いろいろなことができるようになる。

その一方で、
役割を持つ前の状態も、
どこかに残っているように思う。


人は、
何もできない状態から生まれてくる。

やがていろいろなことができるようになり、

そして最後には、
また何もできない状態に近づいていく。

その流れを考えると、

「何もできない」という状態と、
「何でもできる」という状態は、
それほど遠くないのかもしれない。


もしかすると人は、

いろいろな場所へ行き、
いろいろなことを経験する。

遠くまで行って、
多くのものを手に入れて、
また手放していく。

そして最後に、

もともと知っていた場所に
戻ってくるのかもしれない。

あの夜に感じたことも、
そんな「思い出す」という感覚の
ひとつだったように思う。

そして人は、
そういう感覚に戻るために、
遠くまで出かけるのかもしれない。

  • この文章を書いている人
  • 最近の実践と気づき
Shingo Takenaka

Shingo Takenaka

しなやかな律を探る実践者|APLF主宰

北海道・苫小牧市に生まれ育つ。東京大学大学院を修了後、外資系テック企業で働きながら起業。 現在は、人・もの・自然をつなぐ活動を軸に、自己の律と他者との共生を探求しています。 APLFでは「自分らしく、しなやかに生きる」ための実践知を静かに発信し、日々の整えから人生の投資と回収まで、思考と行動を重ねながら日常の美しさを見つけ続けています。

  1. 選び方としての実践

  2. 宇宙は最も遠く、最も近い ─ 遠いものと近いもの

  3. 凍れた地面の上で ─ 冬の夜の記憶

IMADEYA SUMIDA|錦糸町

やっぱり、ここにも来てしまった。

最初のきっかけは、
数年前の、ほんの偶然だったけれど、
足は自然と向いてしまう。

グラスを重ねながら、
人や店との縁は、
静かに続いていくものだと思う。

この夜は、
ここで、ひと区切り。
.
静かな風景の中で立ち上がる感覚や、 
ふと心に触れる光や気配。 
そんな“ことばになる前の世界”が
自分の原点になっています。

北海道で自然とともに育ち、
工学に触れながら手を動かし、
のちに東京で、多様な文化や技術、
人との出会いを通して世界が広がりました。

自然とつくること。 
身体と思考。 
外の世界と自分の内側。 
そのあいだにあるバランスや流れに 
ずっと魅かれてきました。

APLFでは、美しさの気配や日々の気づき、 
旅や暮らしの中でふと立ち上がる感覚を 
静かにすくい上げています。

ここには、旅の記録、よいもの、暮らしの習慣、 
そして思索の断片を置いていきます。

ゆっくりと、自分の歩幅で。 
そんな時間と感受性を、大切にしていきたい。

Shingo Takenaka

▼ Web 
https://aplf.jp
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発酵玄米、続いている。
五合くらい炊いて、二升ジャーで保温。
日常のベース。
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