A Journey Toward Being — The Quiet Force of “Simply Existing”
“存在する”とは、どういうことだろうか。
目に見える肉体があるから存在するのか。
心が動いているから存在すると言えるのか。
あるいは、誰かとの関係性の中で存在が立ち上がるのか。
存在とは、単なる物理的な“ある/ない”ではない。
もっと繊細で、もっと流動的で、
世界との関係の中から立ち上がる現象である。
この章では、「ただ在る」という最も素朴で深いテーマに向き合う。
“ある”と“ない”は固定した状態ではない
日常では「ある/ない」を明確な二分法で捉えるが、
生命や関係性の視点から見ると、
その境界は驚くほど曖昧で流動的だ。
・記憶は消えても、影響は残る
・身体は変化し続けるが“同じ自分”として在る
・関係は離れても、つながりが途切れない
つまり、存在は静止した“点”ではなく、
過去と現在と関係性が編み上げるプロセスである。
存在は「現れるもの」であり「所有するもの」ではない
存在は所有できない。
「私は存在を持っている」のではなく、
存在は私たちの行為・関係・場の中から
現れる(arise)。
たとえば:
- 誰かと話すときの声の響き
- 場に漂う緊張や安心の空気
- 景色の中でふと溶ける感覚
- 名前のない気配のようなもの
これらはすべて、「存在が立ち上がる瞬間」である。
存在とは、生きているあいだに何度も“現れ直す”動的な現象だ。
0と1── 何もないところから立ち上がる“在る”
存在の本質は、0か1かの二分では捉えきれない。
むしろ 0(無)の中に揺らぎが生じ、
そこから 1(有)の形が現れては消えていく。
これは生命にも、関係にも、思考にも共通する。
- 感情は何もない静けさから立ち上がる
- 思考は沈黙の中で形になる
- 関係は見えない糸のように立ち上がる
“無”は空虚ではなく、
可能性という充実した状態であり、
そこから“在る”が何度も立ち上がってくる。
「ただ在る」という状態は、最も力が弱く見えて最も強い
ただ在る──
これは何の行動も伴わず、
何かを証明する必要もない状態である。
しかしこの在り方は、
強さ・深さ・自由を宿している。
- 評価される必要がない
- 結果に自分を固定しない
- 関係性に自然な距離が生まれる
- 努力ではなく“現れ方”が変わる
ただ在ることは、
生命がもともと持っている
最も静かな力である。
存在は「単体」ではなく「つながりの質」として現れる
あなたという存在は、
肉体だけでも、意識だけでも成り立たない。
他者・場所・時間・経験との
つながりの質によって形づくられる。
存在とは、世界とのあいだに張られた
“関係の張力”のようなものだ。
その張力が変わると、
世界の見え方が変わる。
あなたの現れ方も変わる。
APLFにおける「存在」の位置づけ
APLFの構造全体には、
存在とは何かという問いが静かに流れている。
存在は固定された点ではなく、関係と時間の中で立ち上がる現象である。
この存在観は、矛盾や一回性、関係性をめぐる原則を、
思想の根として束ねている。
おわりに ── 存在は、静かな旅である
存在とは、
大きな声で主張するものではなく、
静かに、淡く、しかし確かに立ち上がるものだ。
“ただ在る”という状態は、
生命が最も純粋な形で世界と出会う瞬間である。
次章では、存在のテーマと深く結びつく
「境界」── 個と世界を隔て、同時に結びつける見えない線 へと向かっていく。
➝ 深層 #10|境界のあいだで生きる ── 個と世界の「距離」に触れる
深層シリーズ 記事一覧
APLFを静かに支える「深層」のテーマを、序章から順にたどることができます。
- 深層シリーズ ── 生命観の土壌をめぐる探究
- 深層 #1|生命という揺らぎに触れる ── 動的平衡と矛盾性から見る生命観の起点
- 深層 #2|予測と驚きのあいだで生きる ── 未来は“計算”ではなく“応答”で開く
- 深層 #3|世界はつながりでできている ── ネットワーク構造と生命の地形
- 深層 #4|関係性の中で生きる ── スモールワールドと“ホーム”という生存戦略
- 深層 #5|時間の深層 ── 一回性が価値を形づくる理由
- 深層 #6|揺らぎのなかに立つ ── 不安定さを失わずに進むための感覚
- 深層 #7|身体知と世界観 ── ゆるみから立ち上がる“現れ方”
- 深層 #8|気づきの身体 ── 感覚が先に動き、思考があとを追う
- 深層 #9|存在をめぐる旅 ── 「ただ在る」という静かな力
- 深層 #10|境界のあいだで生きる ── 個と世界の「距離」に触れる
- 深層 #11|深層と実践 ── 共通原則と断面が“土壌から立ち上がる”とき
