しなやかに、自分の律で生きるための実践知メディア

外縁

残っているように感じる

What Remains Is Not Memory

何かが残っているように感じるとき、
それは本当に「記憶」なのだろうか。

そう思うことがある。

記憶は、思っているほど確かなものではない。
時間とともに書き換わり、
夢の中で再構成され、
事実と感情が混ざり合う。

同じ出来事でも、
思い出すたびに輪郭が変わる。
語るたびに、別の意味が貼り直される。

だからといって、
記憶を否定したいわけではない。

ただ、
主観だけを、あまり信用しすぎない方がいい。
そんな気がしている。

それでも、
確かに「残ってしまう」ものがある。

誰かの言葉遣いが、
自分の口癖として現れることがある。

判断の癖や、
物事の受け取り方の傾向が、
いつのまにか身についていることもある。

選ばなかったはずの道が、
ある時点から「選択肢に入らなくなる」こともある。

祖父母や、友人や、
一緒に暮らしていた動物との関係が、
自分の内面というより、
外側の世界の振る舞いを変えているように感じることがある。

それは、
覚えているから、というよりも、
すでに組み込まれてしまっている。
そんな感覚に近い。

祖父の言葉の癖。
祖母の判断の速さ。
直接教わったわけではない価値観。

遺伝子の話もあるだろう。
生活環境や、家のつくり、
庭や、そこにあった物の配置もある。

母や叔母を通して、
間接的に伝わってきたものも多い。

話していなくても、
会っていなくても、
残っているものがある。

人だけではない。
家や、場所や、道具も、
気づかないうちに、行動を変えている。

それらは、
思い出として保存されているというより、
因果として、世界に残っている。
そんなふうにも見える。


星の光や、電波のことを思い出す。

それらは、
何かを伝えようとして放たれたわけではない。
意味を持っていない。
メッセージですらない。

それでも、
情報として届く。

届いた結果、
何かが変わる。

そこにあるのは、
意味ではなく、影響だ。

意味は、
後から人が貼る。

人は、
「あの人がいたから、いまの自分がある」
と語る。

それが正しいかどうかは、分からない。
けれど、そう語ること自体は、
とても自然だと思う。

人は、理由を作る生き物だ。
因果を物語として編み直す。

それによって、
世界と折り合いをつけてきた。

意味づけは、
存在を生み出すというより、
存在に居場所を与える行為なのかもしれない。

残るかどうかは、分からない。

けれど、
影響は、思っているより消えにくい。

それは、
記憶の中ではなく、
世界の振る舞いの中に、
すでに折り込まれているのかもしれない。

では、
どこまでが「人」なのだろうか。

身体か。
記憶か。
遺伝か。
環境か。

それとも、
そのすべてのあいだに立ち上がる、
何かなのか。

まだ、分からない。

ただ、
そう簡単に線を引けないことだけは、
確かなように思える。

この文章は『外縁』に置かれています。
外縁 —— Being Here

APLFの更新を、LINEで静かにお届けします

日常の小さな選択や行動の中に、
感性をひらく“遊び”の余白があります。

「大人の遊びかた研究室」では、
そんな実験や気づきを、静かにシェアしています。

研究室をのぞいてみる ➝

  • この文章を書いている人
  • 最近の実践と気づき
Shingo Takenaka

Shingo Takenaka

しなやかな律を探る実践者|APLF主宰

北海道・苫小牧市に生まれ育つ。東京大学大学院を修了後、外資系テック企業で働きながら起業。 現在は、人・もの・自然をつなぐ活動を軸に、自己の律と他者との共生を探求しています。 APLFでは「自分らしく、しなやかに生きる」ための実践知を静かに発信し、日々の整えから人生の投資と回収まで、思考と行動を重ねながら日常の美しさを見つけ続けています。

  1. 0の側に触れた夜— 向きが変わっていたことについての記録

  2. 静かな呼吸としてのAPLF─ 強い言葉を使わない、という選択について

  3. 世界と距離を取るという、生き方 ─ ここにいながら、巻き込まれすぎない

このメディアをつくっている人

Shingo Takenaka

APLF主宰

しなやかに、自分の律で生きる
人と自然、もののめぐりを見つめながら
東大院|外資テック|起業10年

.
去年の旭山で。

何をしているのかは、よく分からない。
でも、ずっと見ていられた。
.
七夕から、大晦日まで。

振り返ってみると、
できたことよりも、
形にならなかったものの方が
たしかに残っている気がします。

言葉にならなかった感覚、
途中で立ち止まった問い、
まだ名前のついていない違和感。

それらを急いで回収せず、
このまま年を越してみようと思います。

Photo by ruedi häberli on Unsplash
.
光のゆらぎだけが、
静かに景色を整えていた。

関連記事

PAGE TOP